長谷川四郎「鶴」

久々に小説と呼ばれるジャンルの文学作品に手を出したいと思ったのだが、相変わらず頭の調子があまり良くないので、難しい内容のものや長編の作品にはなかなか手を伸ばす気になれない。というわけで長谷川四郎の短編集の中から、「鶴」を読んでみた。

 

 俺はかねてより長谷川四郎の小説をいつか読みたいと思っていて、それはなぜかというと、村上春樹『若い読者のための短編小説案内』で紹介されていたからである。この本の中では題名の通り、村上春樹が個人的に気に入っている様々な作家の短編小説について分析を加え論じている。『若い読者のための短編小説案内』を読んだのも随分と前の話なので、詳しい内容は忘れてしまったが、村上春樹長谷川四郎について語っている文章を読んで「面白そうだなあ、俺もいつか読んでみようかな」という印象を持ったことだけは覚えていたので、いい機会だし読んでみるかと思い今回手に取ってみた次第である。

 

長谷川四郎という作家は、自身の戦争体験・シベリヤ捕虜体験をもとにした短編小説をいくつも残しており、その中でも「鶴」は名作と名高いらしい。実際に読んでみて、これは確かに良い作品だと思った。まず、文体が良い。簡潔で読みやすいが、のっぺりした印象はまるでない。難しい言葉を使わないのに、鮮やかに情景を描写をしている。戦争を舞台にした作品であるのに、血生臭さがない。戦争の苦悩やら葛藤がどうとか、そういう描写はほとんど出てこない。どこか自分自身をすら対象としているような、クールな観察者の視点を感じる。好感の持てる、魅力のある作品である。俺の好みの文体でもあるし、今の俺にも合っている。読みやすく、短くまとまっていて、文体に魅力があり、読後にじんわりとした喜びが体を包む。

 

「鶴」は良い作品であった。他の短編はまだ読んでいないので、ぼちぼち読んでいきたい。そしてそのうち、気になっている長編小説リストの方も消化できるようになっていけたらいいな。

 

さて、風呂に入るか......